動画による解説
(概要)
リバーセルが権利を有している特許の中で、特に重要な3件を紹介します。この3件については、リバーセルは3件とも独占的通常実施権を有しており、また他の実施会社にサブライセンスとして許諾する権利も有しています。そのうち2件の1)TCR-iPS細胞法と2)DP細胞単離法は、日本、米国、欧州、豪州で成立しており、3)TCRカセット法も日本で成立しています(2024年11月現在)。
この3件は、下図のように材料となるiPS細胞を作る方法と、そのiPS細胞からキラーT細胞を分化誘導する方法を提供しています。中でも1)のTCR-iPS細胞法は、再生T細胞療法の基盤となる技術です。非常に幅広く権利化された、強い特許であると考えています。
以下に各特許について解説します。
1)TCR-iPS法
i) 名称:抗原特異的T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞の製造方法
ii) 出願:PCT/JP2015/070623 WO 2016010154 A1
iii) 出願人:河本宏
iv) 発明者:河本宏、増田喬子、前田卓也、桂義元
v) 発明の解説
a) iPS細胞にT細胞レセプター(TCR)遺伝子を導入して作製した細胞を材料にしてT細胞を作製するという発明です。汎用性他家T細胞療法の基本特許になります。欧州、豪州、日本、米国で成立しています。中国は審査中です。
b) 世界の各地域で成立したということは、同様の先行論文や先行特許が無い事を示しており、リバーセルの戦略の独自性を示すものです。
c)基本的な方法として成立していますので、以下のように幅広く権利化できています。
・TCR遺伝子についてはαβ型のTCRだけでなく型のTCRもカバーしています。
・TCT-iPS細胞から作製するTgy細胞については、特定の種類に限定されていません。キラーT細胞だけでなく、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、NKT細胞、gdT細胞など、全ての種類のT細胞をカバーしています。
・TCR遺伝子の導入法についても限定されていません。レトロウイルス、レンチウイルス、ゲノム編集法など、どのような導入法もカバーしています。
vi) 日本で成立した請求項(全10項目)のうちの第1項-第4項を以下に示します。
【請求項1】(1)ヒト多能性幹細胞を提供する工程、(2)工程(1)のヒト多能性幹細胞へ、所望の抗原特異性T細胞受容体遺伝子を導入して、所望の抗原特異性T細胞受容体を有する多能性幹細胞を得る工程、および(3)工程(2)の多能性幹細胞からT細胞を誘導する工程を含む、多能性幹細胞から免疫細胞療法用成熟T細胞をイン・ビトロで誘導する方法。
【請求項2】多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】iPS細胞が、免疫療法対象者のHLAの何れか一方のハプロタイプをホモで有しているハプロタイプホモ接合型のHLAを有しているヒトから得られたiPS細胞である、請求項2記載の免疫療法用T細胞を誘導する方法。
【請求項4】 免疫細胞療法が、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギーなど、免疫が関与する疾患を治療するためのものである、請求項1~3いずれかに記載の方法。
ⅶ)経緯・状況
- 2014年7月出願
- 2018年日本、米国、欧州、豪州、中国に移行
- 2019年12月欧州で成立
- 2021年7月豪州で成立
- 2021年9月日本で成立
- 2024年8月米国で成立
- 中国は審査中
ⅷ)追記
a) リバーセル自体あるいはすでにリバーセルとライセンス契約をしている他社と競合しない標的抗原であれば、リバーセルからライセンスを出すことが可能です。
b) 最近この方法が原理的に成立する事を示す論文を発表しました(Molecular Therapy – Methods & Clinical Development, 19:250, 2020)。この論文ではTCR-iPS細胞法によって作られたキラーT細胞はT-iPS細胞法(T細胞由来iPS細胞を材料に使う方法)によって作られたキラーT細胞と同等であることを示しました。さらに、この方法を用いて作製したキラーT細胞が、動物実験モデルで有効であることも示しました(Kashima er al., iScience, 23:100998. 2020)。この論文では、TCR-iPS細胞法によって作られたキラーT細胞が、ヒト腎細胞がんを免疫不全マウスに移植したゼノグラフトモデルで、腫瘍の増殖を抑制する効果を発揮する事を示しました。
c) 日本で成立した特許に関しては異議の申し立てが2件ありましたが、2022年7月14日付けで特許庁の審査により2件とも拒絶され、これにより日本での特許登録が確定しました。
d) 京大でなされた発明ですが、出願人が河本宏個人になっています。これは、2014年に京大が出願人として一旦出願したのですが、2015年PCT出願時に京大が放棄したため、筆頭発明者である河本に権利が返還され、河本が個人でPCT出願したからです。
2)DP細胞単離法(高品質CTL誘導法)
i) 名称:抗原特異的CD8陽性T細胞を誘導する方法
ii) 出願:PCT/JP2017/015358 WO2017179720 A1
iii) 出願人:京都大学
iv) 発明者:河本宏、増田喬子、前田卓也
v) 発明の解説
iPS細胞から高品質なキラーT細胞を分化誘導する技術。iPS細胞からT細胞を分化誘導するとある時点でCD4陽性CD8陽性(ダブルポジティブ:DP)という未成熟T細胞が生成します。従来法ではそのままTCR遺伝子に刺激を入れていましたが、これではCD8αα型というTCR刺激が伝わりにくい細胞しかできませんでした。本発明ではDP細胞を他の細胞から単離してから刺激を加える方法を考案しました。こうすることによりCD8αβ型の高品質なキラーT細胞を作製することが可能になりました。2020年7月に欧州で、2021年9月に日本、2022年8月に米国で、2022年12月にオーストラリアで成立しました。
vi) 経緯・状況
- 2016年4月出願
- 2018年日本、米国、欧州、豪州に移行
- 2020年7月欧州で成立
- 2021年9月日本で成立
- 2022年8月米国で成立
- 2022年12月豪州で成立
vii) 追記
a) リバーセル自体あるいはすでにリバーセルとライセンス契約をしている他社と競合しない標的抗原であれば、リバーセルからライセンスを出すことが可能です。
b) この方法の有効性と安全性を示す論文は2016年に発表しています(Cancer Research, 76:6839, 2016)。
c) DP単離法は、CARをiPS細胞に導入してそのiPS細胞からT細胞を誘導する場合にも使えます。
3)TCRカセット法
i) 名称:外来抗原レセプター遺伝子導入細胞の製造方法
ii) 出願:PCT/JP2019/029537 WO2020022512
iii) 出願人:京都大学・滋賀医科大学
iv) 発明者:河本宏、増田喬子、永野誠司、縣保年、寺田晃士
v) 発明の解説
TCR-iPS細胞法を発展させた方法です。TCR-iPS細胞法ではレンチウイルスを用いてゲノム中にランダムにTCR遺伝子を挿入しているので、1)ゲノムの損傷のリスクがある、2)発現レベルが安定しない、という欠点がありました。本発明は、TCR遺伝子を本来のTCR遺伝子座に挿入し内因性のエンハンサーとプロモーターによる遺伝子発現制御を受けられるようにするものです。さらにカセットデッキ構造をまず挿入することにより、のぞむTCR遺伝子をカセットテープのように挿入するという方法も取り入れました。
再生T細胞療法の応用範囲を広げるための重要な技術となります。
vi) 経緯・状況
- 2018年7月出願、2019年7月PCT出願
- 2020年日本、米国、欧州、豪州、中国に移行
- 2023年12月日本で成立
vii) 追記
- リバーセルと競合しない標的抗原であれば、ライセンスを出すことが可能です。